アプローチB  大規模分散最適制御アルゴリズム

図1-B 研究スケジュール(アプローチB)

 

現在の日本の垂直統合的な電力網において電力網設備は集中的に管理されているが、将来は分散的な運用が必須となる。たとえば東京電力は現在、28の発電所と送電網、配電網をすべて集中的に運用している。将来、仮に東京電力管内のピーク電力需要(約40GW)の75%を風力発電でまかなうとすると、風車一基の最大出力を2MWと仮定した場合、最低でも2万基の風車が必要となる。実際の風力発電の出力は補足2に示すように最大出力を大きく下回るため、十万基のオーダーの風車が必要となる。太陽光発電の場合も、各家庭がそれぞれ小規模な発電設備を持つようになると想定される。所有者の異なる多数の発電設備を集中的かつ最適に運用することは、制度的にも計算量的にも大きな困難が伴う。また、欧米では垂直統合の解体と電力自由化が先行しており、日本でも震災以降、東京電力の解体の議論が行われている。自由化された電力網においては、それぞれの発電所や送電網、配電網は別々の企業によって分散的に保有され、発電量や各配電網への電力配分量が市場において競争的に決定される。いかに大量の分散的な設備を市場ステムに則って効率よく制御するかが、自然エネルギーの大量導入のためのもう一つのボトルネックとなる。我々が提案する分散的最適化は二段階のアプローチより成る。

アプローチB-1

第一段階は各々の発電所や家庭における最適化である。電力価格や気候条件、地理的条件、発電機の容量、電力消費モデルなどを基に、各々が自己の利益を最大化するような最適化を行う。

アプローチB-2

第二段階は市場全体の最適化である。各種制約条件(需要・供給のバランス、送電網の容量など)が満たされるよう、電力価格や資源の使用価格などを最適に決定する。

電力網における分散最適化には二つの課題がある。第一は各主体をカップリングさせる制約条件の多さである。例えば、送電線を流れる電流は電力網上のすべての発電所・消費家の電圧や位相に影響される。したがって、送電線が容量を超えないことを要求する制約条件を課すことで、アプローチB-1の最適化問題における全ての主体がカップリングされる。標準的な分散最適化手法として双対分解があるが、カップリングの原因となる制約条件の数だけシャドープライスを設定する必要があるため、計算量が増大し、分散最適化のメリットが損なわれる。いかにして電力網上のカップリングした制約条件をデカップルし分散最適化を行うかが、重要な研究課題のひとつとなる。

第二の課題は市場の失敗のリスクを防ぐことである。2000年から2001年にかけて発生したカリフォルニア電力危機は、電力自由化の移行過程において、市場システムの欠陥を電力会社が悪用し市場が混乱したことが引き金となった。上記の第二段階の最適化問題において、市場のシステムを適切に設定しなくては、各主体が利己的に行動することが全体の不利益になる可能性がある。

これらの課題を解決するアルゴリズムを開発することが、本研究の理論面でのフォーカスの一つとなる。

図5 アプローチBのコンセプト