アプローチA  確率モデルに基づいた最適制御アルゴリズム

図1-A 研究スケジュール(アプローチA)

 

補足2のように、自然エネルギーの大量導入を実現するためには、「最悪ケース」に基づく既存のロバスト制御ではなく、確率モデルに基づいたアプローチを取る必要がある。我々は次の三段階のアプローチを提案する。

アプローチA-1

第一段階は不確定性を最小化するための最適設備投資計画である。例えば、地点間の気候の相関や気候条件と電力需要の相関を考慮して太陽光・風力発電設備の地理的配置を最適化することで、発電総量から総需要を減じた量の確率分布の分散を最小化することができる。

アプローチA-2

第二段階は、第一段階で最小化された需給の不確定性を所与として、制約条件が破られるリスクを定量的に抑制する最適制御である。先述したように「最悪ケース」を想定できないために、停電などのリスクをゼロとすることは一般的に不可能である。しかし、確率モデルに基づいた最適化を行えば、リスクに上限を設けることが可能となる。つまり、たとえば24時間内にいずれかの送電線において容量を超える電流が流れるリスクを0.001%以下に抑制しつつ、送電ロスを最小化する潮流制御がその例である。そして、もしこの0.001%のリスクが具現化してしまった場合に備えるのが、次に述べる第三段階である。

アプローチA-3

第三段階は、異常を早急に検知し、システムの変化に適応する耐故障システムである。電力網の運用における最大の脅威はcascading failure (連鎖的な故障の波及)によって小さな異常が大規模停電に至ることである。例えば、一本の送電線が断線すると、他の送電線に予期せぬ大電流が流入し、断線が連鎖しうる。事実、2003年の北アメリカ大停電においては、一ヶ所の発電所の故障がcascading failureを引き起こし、結果として5000万人に影響する大停電に至った。異常をいち早く検出しcascading failureを食い止める耐故障性があれば、たとえ異常発生のリスクがゼロでなくとも、国全体を巻き込むような大停電を未然に防ぐことができる。

図4 アプローチAのコンセプト